日本では、南海トラフ地震や首都直下地震、日本海溝・千島海溝地震などの発生が切迫している。今年4月には三陸沖を震源とするM7.7の地震が発生したばかりだ。命を守るためには、家屋の耐震化や家具の固定などで被害を軽減する「事前防災」の実践が欠かせない。しかし、取り組みは進まず、例えば家具を固定している人は37.6%(内閣府調査)にとどまる。
■補助金だけで人は動かず…
「お金がかかるし、補助金の利用手続きも大変」「そのうちやろうとは思っている」――。事前防災を先送りする理由はさまざまだ。中には「対策を怠って困るのは自分だけ。他人に迷惑は掛けていない」と言う人もいる。だが、大規模災害の発生直後は救助や医療の体制がひっ迫する。未然に防げたはずの被害を放置することは、結果として被災地全体の初動対応に深刻な影響を及ぼしかねない。
行政も各地で事前防災の補助制度を設けているが、利用は思うように伸びていない。とりわけ、高齢化率が高く古い木造家屋の多い過疎地では、耐震化率が低い傾向にある。2024年1月の能登半島地震では、災害関連死を除く犠牲者の4割が「圧死」であり、多くの人が倒壊した木造住宅の下敷きになった。
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どうすれば事前防災に取り組んでもらえるのか。地震工学の専門家である福和伸夫・名古屋大学名誉教授は、行動変容には5段階のステップが必要だと強調する。①気付き=命に関わると自覚する②理解=なぜ対策が必要なのか理屈を知る③納得=実験結果や具体的なデータを通じて腑に落ちる④わが事化=自分の問題として捉える⑤決断・実践=周囲からの説得や専門家の提案を受け、具体的な行動に移す――。
「補助制度を用意するだけでなく、このステップを踏んで事前防災を実践してもらえるように、住民に寄り添う伴走型のアプローチが不可欠だ」(福和氏)
■高知県、伴走型の支援が奏功/戸別訪問通じて診断・改修を提案
大きな成果を上げているのが高知県だ。同県では、耐震改修が必要とされる約2万3000戸のうち、1万9000戸超(約8割)の工事を完了させた。その原動力は、住民が途中で挫折しないよう、行政が全てのステップをサポートする仕組みにある。
まず、県と市町村が連携して、担当職員らが旧耐震基準(1981年5月31日以前)の木造住宅を複数回にわたって戸別訪問。これが住民にとって「わが家も対象だ」という“気付き”になり、丁寧な説明を通じて危険性の“理解”につながる。さらに、訪問時には耐震診断を提案。実施することで、自宅のリスクを客観的なデータとして“納得”した上で、耐震改修への道が開かれる。
費用面では、低コスト工法の導入と補助金の拡充を行い、工事費の平均自己負担額を約38万円まで圧縮、全体の36%は自己負担ゼロで改修できる環境を整えた(ともに2024年度)。これにより「お金がかかるから無理」という諦めをなくし、対策を“わが事化”させている。
“決断・実践”に向けては、役所から施工事業者へ直接補助金が支払われる「代理受領」の仕組みを構築。住民による費用の立て替えや複雑な手続きを排除し、スムーズな施工へと導いている。
■防災の旗振り役、公明党に期待
高知県のように、住民が具体的な行動を起こせるまで伴走する支援体制を全国へ広げて定着させるためには、行政と地域住民の間をつなぐ存在が不可欠だ。福和氏は、公明党への期待を語る。
「全国に地方議員がいる公明党だからこそ、事前防災の意識を社会に浸透させ、具体的に前進させる仕事ができる。庶民に寄り添う防災・減災の『旗振り役』になってもらいたい」
■公明・中道、政府へ具体策訴え/実施効果“見える化”など
「防災・減災を政治、社会の主流に」と訴え、施策の具体化を一貫して進めてきた公明党。事前防災についても、中道改革連合と共に国会で具体的な提案をしている。
今年4月23日の衆院災害対策特別委員会で中道の中川宏昌氏は、住宅耐震化や家具固定などの被害軽減効果【グラフ参照】について「分かりやすく“見える化”して国民に行動を促すべきだ」と主張。特に高齢者や障がい者、子育て世帯などの要配慮者への支援を強化して、自助の力を底上げすべきだと訴えた。
5月8日の参院災害対策、東日本大震災復興特別委員会では、公明党の佐々木雅文氏が質問。「行動変容を起こすには、正しい情報を提供するだけにとどまらず、具体的な介入を伴う仕組みが必要だ」と指摘し、喫煙率の低下などを進めたヘルスコミュニケーション学の手法を防災に取り入れる必要性を力説した。
