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南海トラフ巨大地震の発生確率、なぜ見直し

2025/10/14 公明新聞3面

2025年10月14日

 関東から九州の広い範囲で強い揺れと高い津波が発生し、甚大な被害をもたらすとされる「南海トラフ巨大地震」。政府の地震調査委員会は先月、同地震が起きる確率の計算方法を見直し、今後30年以内の発生確率を「80%程度」から「60~90%程度以上」に改めた。見直しの経緯やポイント、受け止め方などについて解説する。

分析方法をより精密化/「80%程度」を「60~90%程度以上」に

 南海トラフ巨大地震は、おおむね100~150年ごとに発生してきた。過去300年ほどを見ると、宝永地震(1707年、M8・6)、安政東海地震・安政南海地震(1854年、M8・4)、昭和東南海地震(1944年、M7・9)、昭和南海地震(46年、M8・0)と続く。直近の地震から約80年が経過しており、地震が発生する切迫性は高まってきている。

 防災対策の基礎となる情報を提供するため、政府は2001年以降、南海トラフ地震の「今後30年以内の発生確率」を公表。その確率を出すために用いてきた従来の計算手法が「時間予測モデル」である。

 このモデルでは過去の地震の発生間隔や、地震発生時に海底が持ち上げられた高さを示す「隆起量」を基に計算する。1回の地震で大きく隆起するほど、次の地震までの間隔が長くなるのが特徴だ。南海トラフ地震の発生確率は毎年1月1日を基準として更新されており、今年1月の発表では今後30年以内の発生確率を「80%程度」としていた。

 今回、なぜ南海トラフ地震の新たな発生確率が発表されたのか。主な理由は新たな知見を踏まえ、計算方法を見直したことにある。

 ポイントとなったのが、確率を出すために用いてきた地盤の隆起量データの見直しだ。隆起量は、江戸時代の古文書に記録が残る室津港(高知県)で観測された数値を用いてきたが、最新の研究では誤差があることが指摘されていた。

 そこで、記録を精査し隆起量に幅を持たせた上で、計算手法の改良などにより、今後30年以内の発生確率を「60~90%程度以上」とした。不確実な自然現象である地震に対し科学が進歩して、より精密に分析できるようになった。

 さらに、今回の発表に合わせて、国内で使われている別の計算手法で出した確率も併記するようにした。この手法は隆起量を加味しないなどして計算したもので、今後30年以内の発生確率は「20~50%」との結果が示された。二つの確率が併記されたものの、地震の規模や被害地域などの想定は変わらない。

 地震調査委は、二つの確率について「どちらが適当かは科学的に優劣を付けられない」とした上で、自治体が住民に周知する場合などには「高い方(60~90%程度以上)を強調することが望ましい」としている。

■依然として高い切迫性/引き続き防災対策の強化を

 では、今回の見直しをどう受け止めればいいのか。忘れてはいけないのが、発生確率の計算方法が変わっただけで、地震が発生する切迫性は依然として高い状態にあるということだ。

 その上で重要なのは、今回の見直しを受け、災害に対する備えや意識を一層強化していくことだ。地震調査委の平田直委員長(東京大名誉教授)は「必ず30年以内に起きるわけではないが、1年以内に起きる可能性もある」として、引き続き自治体や住民らに対し防災対策に努めるよう注意を呼び掛けている。

 例えば、地震の揺れを感知し電気を遮断する「感震ブレーカー」の普及などがそうだ。電気機器からの出火や、停電が復旧した際に発生する通電火災を防ぐことにつながる。公明党の後押しもあり、設置・購入の助成を行う自治体は全国200の市区町村に広がっている。

 今後の防災対策においては被害想定が大きい地域の避難計画や、自治体が策定する「地域防災計画」の実効性を一層高めていけるかどうかが鍵を握る。政府には科学的知見を防災施策に迅速に反映できる体制の整備とともに、自治体や国民への分かりやすい情報発信が求められる。

 党復興・防災部会長の中川宏昌衆院議員は「避難路整備や耐震化の促進、防災教育、デジタル技術を活用した避難情報の伝達など、総合的な防災力の底上げに全力を尽くす」と強調。その上で、災害時対応では自治体間の広域連携が重要だとし「公明党の国と地方のネットワークを生かして取り組みを加速させていきたい」と語っている。